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ビートルズのカバーソングス・ベスト [01] -Please, Please, Me-


世界中でビートルズほどカバーされたアーチストはいません。数々のカバー曲を聞いてみると、中にはミュージシャンたちの個性や音楽センスが如実に出ているものがあります。こうした楽曲群、それはそれでひとつの音楽ジャンルと言えるでしょう。

永年にわたって音楽を聞いてくる中で、否応なしに避ける事のできない「ビートルズのカバー・ソングス」。そんな中から「ベスト」を選んでみようというのが今回の試みです。

第一回は彼らの記念すべき1stアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』。このアルバムは大半の曲がわずか一日のレコーディング(1963年2月11日)で完了し、イギリスでは59年前のまさに今日、1963年3月22日に発売されました。日本では坂本九の「上を向いて歩こう」がちょうどリリースされた頃でした。

Please Please Me 裏ジャケ

なお収録曲14曲中6曲は、ビートルズが他のミュージシャンの曲をカバーした作品となるわけですが、こちらもあわせて記事内で紹介する事にします。どうかYoutubeのリンク切れが起こらない事を祈りつついってみます。

1. I saw Her Standing There / Tiffany (1987)

I Saw Him Standing There

いきなり1980年代ポップ全開のカバーです。シンセ・ベースとアタック強めのドラムが軽快にビートを刻み、そこにシンセがオンしてゆく。実はこの音が現代のアーチストにとって新鮮で刺激的な音だったりします。ティファニーは1980年代後半にアイドル的に人気を誇ったシンガー。その可愛らしいルックスと、このシャウト感のギャップがいい味を出しています。

Album : Tiffany / Release:1987.09.15

2. Misery / Flamin’ Groovies (1976)

Flamin' Groovies - Misery (1976)

フレイミン・グルーヴィーズは1970年代のガレージバンド。当時はさほど評価されなかったにも関わらず1990年代になってアルバム「Teenage Head」の再評価ブームとなった事で脚光を浴びました。イントロのコーラス部分はオリジナルと大差ないので「まんま」のカバーじゃんと思わせておきながら、いきなりガレージ系サウンドで突っ走る突っ走る。ガレージだけにチープなドライブ感がカッコいいですね。

Album : Shake Some Action / Release:1976.06

3. Anna (Go To Him) / Arthur Alexander (Original)

Anna (Go to Him) (Bonus Track)

逆にビートルズがカバーした曲です。「誰も知らなさそうな曲をカバーする」。これはデビューした頃のビートルズのこだわりでした。アーサ・アレキサンダーは全米ではさほど売れなかった歌手で、1970年代以降は、芸能界を辞めてバスの運転手をしていたらしい。そんな彼の名前と音楽はビートルズやローリング・ストーンズがカバーした事で、世界中の人々の記憶に残ったのです。

Single : Release:1962.9.17

4. Chains / The Cookies (1962 – Original)

The Cookies - Chains (1962)

これもビートルズがカバーした曲です。「アーチストではなくソングライターを追いかける」。これも彼らの音楽に対するスタンスでした。これはプロのミュージシャンを志す人にも大切な事だと思います。作曲したのはキャロル・キング。渡米したビートルズが会いたがったアメリカ人の一人でした。前回のアレサ・フランクリンに関するコラムで礒部先生が『Natural Woman』について触れていましたが同じ天才作曲家による作品です。

Single / Release 1962.11

5. Boys / The Shirelles (1960 – Original)

The Shirelles - Boys (1960)

ビートルズがカバーした曲のオリジナルが続きます。そのキャロル・キングの作品として1960年に大ヒットしたのが『ウィル・ユー・ラブ・ミー・トゥモロー』です。後にキャロル本人が『つづれおり』でカバーする曲ですね。これはそのB面となった作品。作曲はルーサー・ディクソン。ボーカルを担当したリンゴのお気に入りの一曲でした。

Single / Release 1960.11

6. Ask Me Why / Litto Nebbia (1999)

アルゼンチンを代表するシンガーソングライター、リット・ネビア(Litto Nebbia)は3枚のビートルズのカバーアルバム『Beatles Songbook』をリリースしています。アルバムのサブタイトルに「A South American Vision」とあるので「南米アメリカ音楽の視点からみた解釈」という事になるんでしょうけど、私にはわかりませんでした。『Ask Me Why』の1990年代的解釈という意味なら合点が行く一曲です。

Album-Beatles Songbook 1 / Release 1999.5

7. Please Please Me / The Score (1966)

音楽ライターの犬伏功さんにイベントで教えて頂いた曲です。
これを聞いた時の衝撃は相当なものでした。これが「カバーソングベスト」を作ろうとしたきっかけだったかもしれません。

音楽の進化が急激だった1960年代、1年前の音楽が陳腐なものになるという異常な進化の中ににありました。そんな中で3年前の初期ビートルズの楽曲をカバーするというのは、それなりの覚悟と方法論が必要だったと思います。このレコードですが、1966年当時は全く売れなかったにもかかわらず、1990年代にモッズ・サウンドが注目される中で発掘されたのでした。ヤード・バーズ、スモール・フェイセス、ビートルズを足して3で割ったようなカバーですが、既存の価値観を崩壊させようとしていた1966年のエネルギーをぎっしり詰め込みながら、今なお新鮮な輝きを持っていると思います。おそらくビートルズのカバー曲の中でもベストに入る作品のひとつでしょう。

Single / Release 1966.11.25

7. Love Me Do / Sandie Shaw (1969)

Sandie Shaw - Love me do (UK, 1969)

ビートルズのカバーばかりを聞いて選ぶという行為は、かなり聞き手の音楽観とか好みとか出ると思います。それが如実に出てしまった例かもしれません。凡百の『Love Me Do』のカバーの中では、オリジナリティ、オシャレ、クール、3拍子揃ったカバーだと思います。日本でも人気のあったサンディ・ショウは、ステージで裸足で歌う事から「裸足の歌姫」と呼ばれていました。

Album:Reviewing the Situation / Release 1969

7. P.S.I love you / Jolina Magdangal (2000)

ジョリーナ・マグダンガルはフィリピンを代表する歌姫。そんな彼女が歌い上げる『PS. I Love You』は、アレンジングの妙によって、オリジナルを凌駕しそうな魅力ある作品となりました。

Album : On Memory Lane / Release 2000.01.23

7. Baby It’s You / The Shirelles (1961 – Original)

Baby It's You (Remastered)

作曲家のバート・バカラックといえば『雨にぬれても』があまりにも有名ですが、これもまたビートルズがカバーした作品です。

Single / Release 1961.11

11. Do You Want to Know a Secret? / Keely Smith (1964)

Keely Smith - Do You Want To Know A Secret? (The Beatles Cover)

こうした「ビートルズ・カバーソングス」の選定基準の一つとして、その知名度より「編曲のオリジナリティの点で個性があるかどうか?」という事を考えています。例えばこの曲ならビリー・J・クレイマー&ダコタスのカバーが全英ヒットしており、よっぽどそちらの方が知名度が高いのですが....
ケーリー・スミス(Keely Smith)は「スイングの王様」と呼ばれたルイ・プリマ (Louis Prima)の奥さん。飛び回り跳ねまわるルイ・プリマの横で無表情で歌うジャズ・シンガーでした。
林家三平における小倉義雄(アコーディオン)みたいなものです。そんな彼女がジャジーに歌い上げます。

Album : Keely Smith Sings the John Lennon/Paul McCartney Songbook / Release 1964

12. A Taste Of Honey / Bobby Scott (1960 – Original)

1st RECORDING OF: A Taste Of Honey - Bobby Scott (1960--3 instrumental tracks)

音楽史の中においてビートルズをどう捉えるか?僕は「ロック誕生以前の時代からあるスタンダード曲、そこにある美しいメロディをロックビートと融合させたバンド」と、そう捉えています。
邦題『蜜の味』で知られるこの曲、元々1960年にブロードウェイ・ミュージカルのために書かれたスコアで歌詞はありませんでした。ビートルズが直接的に影響を受けたのはボーカルをプラスしたラリー・ウェルチのバージョンです。こうしたスタンダード曲と言える作品もまた、初期のビートルズの重要なレパートリーだったのです。

Album : A Taste of Honey / Release 1960.10.20

13. There’s a Place / Leftover Cuties (2020)

There's a Place - Leftover Cuties (Audio) - Beatles Cover

Leftover Cutiesはロスで結成されたバンド、ノスタルジックで温かみのあるポップサウンドが特徴です。紅一点のShirli McAllenの温かみがあって芯のあるボーカルがいいですね。
これはジャズからロックまで様々な楽曲のカバーアルバム『Little Big Room (2020)』からの洒落たカバーです。なお、このアルバムでは『Misery』もカバーしています。

Album-Little Big Room / Release 2020.04.27

14. Twist and Shout / Top Notes (Original – 1961)

1st RECORDING OF: Twist And Shout - Top Notes (1961)

『ツイスト・アンド・シャウト』と言えば、ビートルズが直接的に影響を受けたのは 1962年リリースのアイズレ・ブラザーズのバージョンです。しかしリリース順で考えるのであれば、全く売れなかったトップ・ノーツの『ツイスト・アンド・シャウト』がオリジナルと言えるでしょう。1961年の事です。
この「あまり面白くないバージョン」のプロデューサーは何とフィル・スペクター。後に彼は『Let It Be』をプロデュースする事になります。バックでサックスを吹いているのはキング・カーティス。後にビートルズの全米ツアーで前座を担当し、ジョン・レノン「イマジン」のレコーディングにも参加しています。そしてバックコーラスはクッキーズ。先ほど紹介した『チェインズ』のオリジナル・アーチストです。つまりビートルズには縁遠いバージョンですが、実は縁深いバージョンだったわけですね。

Single / Release 1961 / Recorded 1961.02.23

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